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冷めたスープをかきまわしても魔法はおこらない
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『<WELCOME TO THE WORLD OF ”HEXA BIBLOS”>』
『<!DEMO PLAY!>』







 カードはまるきり市販のそれで、最近テレビでCMを見かけた。何て事のないごく普通の、中高生向けの玩具だ。だから、友人の家に行くまでの道を、まるで塞ぐように存在感を示して落ちていたその箱を、俺は何の感慨もなく拾い上げた。思った事といえば、ああこれもう発売してたんだ、とか、落し物だろうか、とかそのくらいだった。
 というのも俺はそもそもカードゲームにはあんまり興味が沸かなくて、今でも同年代では結構流行っていると思うが、例えば偶然新品同様のスターターパックを拾ったからといって始めてみようという気も無く。

『――各フェイズで出来る行動は限定されています。プレイの流れに沿って見ていきましょう』

 ただその認識は覆さざるを得ず、寧ろ、気がつけば自ら縋るように逆方向へと意識をスライドしていた。
 ふと瞬きで一瞬暗転した世界が、次に捉えた時には随分様変わりしていた時点で、俺の縋れる細い命綱は「常識」の概念ではなくなった。

 俺の前にテーブルでもあるかのように、勝手に展開したカード達が光を纏って宙に浮いていた。下から覗き込むのを防いでいるのだろうか、青白い光は湧き上がるように煌々とカード達を包む。
 どこから聞こえているのか分からない、落ち着いた女性の声が流暢にカードゲームの設定やシステムを説明していたが、俺はまるで上の空で、ヘッドホンもつけっぱなしでただ目の前の現実を眺めた。


 例えば、例えばだ。
 俺がこのカードを使ってどこぞのデュエリストよろしく(漫画はなんとなく読んでいたが結構前なのでうろ覚えだ)自分の陣営にモンスターだのを召喚して戦うのだとしても。相手も同じシステムでなければ、悠長にカードを並べて何か召喚する為にコストを用意している場合ではないんじゃないか?
 現に先までつぶらな瞳を俺に向けていたひよこは突如立ちはだかった光る紙切れの群れに目を瞠っているが、ひよこは原住民のひよこちゃんであるわけで、別に誰かがカードゲームのシステムに則って召喚したわけではない。
 だからいわゆる「俺のターン」でも、構わず突進してくるんじゃないか?

『ご心配には及びません。
プレイヤーはルールに従ってのみカードの恩恵を受ける事が出来ますが、
 同様に相手の攻撃もまたルールに従ってのみプレイヤー側に与えられます。
 したがって、プレイヤーのターンにルールを逸脱した干渉が行われた場合、
それらは無効となります。
 しかし、プレイヤーのフェイズ進行には制限時間が設定されている為、
 一定の時間を超えて干渉を遮断する事は出来ません』


「へえー」

 やだ納得しちゃった。

「ちょっと待った!!何今の!?会話できんの!?
 つーか何このチュートリアル待って聞いてなかったんだけど!」

『尚、お問い合わせの際には「Q&A - よくある質問」をご覧になった上で
当社ホームページのメールフォームより…』
『ゲーム説明に戻ります』  『~NOW LOADING~』


 なるほど質問に応じてヘルプが呼び出された形のようだった。
 思考を読まれた事についてはもうつっこまない方針に決める。

 右手側にカードの山、そこから引かれた手札であろうカードが俺の眼前に絵柄を見せて綺麗に並ぶ。
 カードの向こうでは巨大ひよこがしきりに首を傾げながら見えない壁を啄ばんでいるがそれには極力目を合わせない。さっき俺が唖然としている間に進んでしまったらしい展開は後で個人的にチュートリアルを見直すとして、場には白い霧を湛える森が描かれたカードが一枚、横向きに置かれている。
 それだけ確かめて、目線を引いて手札を確かめようとした丁度その頃、「説明書」のロードが終わった。

『そして、現在手札にあるクリーチャー、「騎士王ルガルバンダ」を呼び出します』

「!?」

 霧を纏う森のカードが白くほのかに輝いて、独立した光の塊が宙に尾を引いてこちらに飛んできた。
 眩さに生理的に瞼を閉じかけるが、光は迷い無く手札の中の一枚にぶつかって、そのままその身をカードに宿した。

 カードに描かれた絵は青白く輝く甲冑に身を包んだ逞しい人間。
 マントを翻し堂々と大振りの剣を握る様は支配者然として、それでもどこか亡霊のようにも見えるのは色相は統一されて差し色も無い、ただ闇の中には浮くように光を湛える姿からか。


「騎士王、ルガルバンダ」


 チュートリアルの音声に聞いたまま、そのカードの名前を読み上げた。

 金属が揺れて軽くぶつかる音が、頷く王の答え。








「―――…ひよこって、モンスターって括りじゃなかったんだろうなあ」

 王はその僅かに毀れた剣をひよこに向かって構え、何をするかと思えば剣の「平」で実に優しく黄色い頭を叩いた。
 チュートリアルはあくまでゲームに忠実に、ルールに順当に説明をしていたが、目の前で光ったり自分より大きな甲冑が現れたりひよこなりにも信じられない出来事ばかりで驚いたのだろう。騎士王のその、まともな効果音もつかないような一撃で、ひよこは慌てて逃げ帰ってしまった。

「それにしても…町まで辿り着いたはいいけど」

 箱から出したままのカードの束を見下ろしてひとつ嘆息する。
 箱の中にはカードと別に折り畳まれた一枚紙が入っていて、捲って見ればどうやら先のチュートリアルが書かれているようだ。俺の命綱は今の所カードそのものよりもルールブックかもしれない、と、先の展開を思い返せば嘆息もう一つ。

「さあ、これからどうするか…、…ん?」

 町には随分と人が多く、市場のような遣り取りが行われていたり、屈強な戦士から小さな少女までが声を掛け合い、 握手をしてみたり笑ったりと賑やかにしている。
 見たところその種族や文化はてんでばらばらで、中には俺と似たような境遇を嘆く声が聞こえた。

 もしかして、この世界は余所から集めて来た人材で成り立っているのか?
 それとも世界崩壊の危機に瀕して、勇者たりえる人材を他の世界から召喚している?
 ハハッワロス。RPGのやりすぎだ。

 何から考えていいのか判らず漠然とそんな事を思っていた俺の足元を、一匹の猫がするりと通り過ぎた。

「猫?」

 別に何の目的があるわけでもなく、俺は猫のぴんと立った尻尾に従うように歩いた。

(…そういえば、世界は違ってもいるものって大体同じなんだな)

 まさかここが横浜と地続きのテーマパークとはさすがに思わない。
 視界の端に猫の尻尾を捉えながら、俺は何度目かも分からないが周囲をぐるりと見回した。




本来出会う筈のなかった人々の別れについて想う、
ただ、まだ出会ってもいない
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