冷めたスープをかきまわしても魔法はおこらない
この友人、斧鉈初は語り口こそ一本調子で感情の起伏を読み取りづらいがその実冷静だ。
楽観的ではあるが何かと慌ただしい自分からすれば、しれっと本題に引き戻される事も有難かった。
席を取ったのだろう、電話口からはファストフード店内のざわめきが僅かに漏れ聞こえる。
「ここはセルフォリーフって場所で、スティルフって町。
今はちょっと離れて周りを歩き回ってるけど…山とか森とか、大自然って感じ。」
鸚鵡返しに呟いたのち、周囲の雑音よりも間近で物音が聞こえた。
トレーを置いたか何かしたのだろうと頭の隅で結論づけて、情報の伝達を続ける。
ここに来たって人が同じ事言ってたから、そうなんだと思う。」
聞いて覚えている事をそのまま口に出してみると、生きる術たるカードゲームのルールを覚える事に必死で
あまり考察も情報の整理もしていなかった事実を思い知る。
今主に行動を共にしている新体操みたいな衣装を纏う少女もまた、状況は自分と大差無い様で
主な情報源は食糧を譲ってくれる商人や、オーバーテクノロジーを連れる少女だ。
「い、言っとくけど自作じゃないからな!断じて!
映画でも漫画でもゲームでも聞いたことないし、それに…」
「その、じぶんのいしでセルフォリーフにきたってやつは、
ぶんかつせかいをいききできてるってことな?」
俺と一緒で何だかわかんないうちにここに居たって言う人もいるし。」
ぎんががいるそこも、おれがいるここも。 …それか、」
“ここ”と“そっち”じゃくくりがちがうとかな?」
「えっと…?じゃあ、でっかい世界のくくりが違う俺やヴァールさんは
事故みたいにくくりを超えちゃったから戻るに戻れない…」
一対一で間違いなかった筈の電話口から、明らかに初と違う声が入った。
それは周囲の客の声にしては近く、明瞭にこちらの耳に届いて俺は思わず一度耳を離して画面を確かめた。
「まあ続けろ。お前のとっ散らかった説明を整理してやるんだ、
感謝するんだな。」
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